腎臓ケア これだけは知っておきたい数値の話

投稿者 :KobayashiMay on

腎臓疾患 早期発見のために

腎臓は、一度機能が失われると再生ができない臓器と言われます。
また、沈黙の臓器と呼ばれるように、症状が表面に出にくく、機能の喪失に気づきにくいという問題もあります。

腎臓の数値というと、BUN(尿素窒素)やCre(クレアチン)の数値を思い浮かべる方も多いかと思います。

① BUN(尿素窒素)
→「タンパク質」を食べた後に出る燃えカス(ゴミ)です。
異常なると数値が高くなります。

ポイント: 食事(高タンパク食)や消化管出血など、腎臓以外の影響も受けやすい数値です。そのため、次の「クレアチニン」と合わせて判断します。

② Cre(クレアチニン)
→体の「筋肉」が活動した際に出る燃えカス(ゴミ)です。
BUNと違い、食事の影響をあまり受けないため、腎機能の指標として重視されます。
異常になると 数値が高くなります。

注意点腎臓の機能が75%以上失われないと数値が上がってこないため、初期段階では見逃してしまうことがあります。(※筋肉量に比例するため、痩せて筋肉が落ちると低めに出ることがあります)

上記の2つの数値が上がってからでは、すでに腎臓機能の喪失はかなり進行しています。

では、どうすればもっと早く気づけるのでしょうか?

この数値に注目!!

機能が失われる前の警告灯 SDMA

SDMAって何?
SDMAは、Symmetric Dimethylarginineの略称で、日本語では「対称性ジメチルアルギニン」と訳されます。

 比較的新しい検査項目で、Cre(クレアチニン)よりも早期に、腎機能の低下を検知できるマーカーです。

ポイント: 
腎機能が平均40%程度失われた段階から数値が上がり始めるため、早期発見に役立ちます。

筋肉量の影響を受けにくいため、筋肉が落ちた子の早期発見に特に有効です。

BUN/Creよりもずっと早い段階で異常をキャッチできるため、定期健診ではこちらの数値を重視することが増えています。

腎臓病進行の3つの大きな壁

第一の壁:腎機能の40%喪失

マーカー: SDMAが上昇し始める(>14 µg/dL)*1

症状: まだありません。

解説: SDMAは非常に優秀で、腎機能が4割失われた時点で反応します
しかしこの段階では、残りの6割の腎臓が頑張っているため、おしっこを濃縮する力はまだ残っています。

つまり、「SDMAの数値は上昇を始めているけど、外から見た症状(多飲多尿)はない」期間です。

←日本の旧モノリスの検査では>11μg/dlになっています)

 

第二の壁:腎機能の66%(3分の2)喪失

マーカー:SDMAの目安: 概ね 18 〜 25 前後

症状: 多飲多尿(尿比重の低下)が始まる

解説: 腎臓の機能が3分の2失われると、いよいよ「尿を濃縮する力」が維持できなくなり、多飲多尿の症状が現れます。

これまでは濃い尿を出せていたのに、薄い尿しか出せなくなる。
その結果、体の水分を守るために水をガブガブ飲み始めます。

この時、まだクレアチニン(Cre)は正常範囲内か、ごく軽度の上昇に留まることが多いです。

第三の壁:腎機能の75%(4分の3)喪失

マーカー: SDMA>25
     クレアチニンが明確に上昇する

症状: 多飲多尿に加え、食欲不振や吐き気が出始めることも

解説: 従来の血液検査で「腎臓が悪い」と診断されるのはこの段階です
多飲多尿の症状は、これより前の段階ですでに始まっています。

【重要】腎機能喪失レベルと症状の相関図

ステージ分類について

上の表は、IRISのステージ分類ごとの、腎臓の機能喪失割合と腎臓マーカーの数値、目に見える症状の相関図としてまとめたものです。

IRISステージ分類とは、「国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society)」が決めた、世界共通の慢性腎臓病(CKD)の重症度判定基準のことです。

人間のがんの診断で「ステージ1〜4」という言葉を聞くと思いますが、それの「腎臓病版」だと考えてください。

「SDMA」「クレアチニン」「症状(多飲多尿)」などの情報を総合して、「今、腎臓病はどの段階にいるのか?」を客観的に判断し、適切な治療方針を決めるための「地図」のようなものとしてご活用ください。

表から読み取るべき「3つの重要ポイント」

1.多飲多尿は、SDMAの警告の後に来る

上の表の通り、SDMAが上がり始めるのは「腎臓機能が40%喪失」の時点です。

しかし、実際に飼い主様が「お水をよく飲むな」と多飲多尿に気づくのは「66%喪失」の時点です。

つまり、SDMAで異常が見つかってから、実際の症状が出るまでには「タイムラグ」があるということです。

SDMAの数値の警告に気づいた時点からケアが始められれば、腎臓の機能はまだ60%残っています。

2.クレアチニンが上がった時腎機能は残り25%

昔ながらの血液検査(Cre/BUNのみ)では、腎機能の75%が失われるまで「正常」と判定されてしまいます。

「血液検査は正常だったのに、急に悪くなった」と感じるのは、この「75%の壁」を突然越えてしまったからです。

3.多尿がなくなるのは回復ではなく末期

表の一番下(ステージ4)をご覧ください。

それまで大量に出ていたおしっこ(多尿)が止まることは、腎機能が90%以上失われ、尿を作る工場自体が閉鎖されたことを意味します

ここに至る前に手を打つ必要があります。

この表を頭に入れておけば、愛犬・愛猫が今どの段階にいて、次に何に気をつけるべきかが、冷静に判断できるようになるはずです。

IRISステージ分類の仕組み

判定は以下の3つのステップで行われます。

1) メイン判定: 血液検査(Cre:クレアチニン)の数値でステージ1〜4に分ける。

2) 早期判定: SDMAの数値も加味して補正する
             (Creが低くてもSDMAが高ければ上のステージとみなす)。

3) サブ判定: 「血圧」と「尿タンパク(UPC)」の状態で、リスクをさらに細かく分類する。

同じ「ステージ2」の犬でも、予後(余命や進行速度)は全く違うことがあります。
それを分けるのが「血圧」と「尿タンパク」です。

▪️高血圧の有無:
 腎臓が悪くなると血圧が上がり、その高血圧がさらに腎臓を壊すという悪循環になります。

▪️尿タンパク(UPC)の有無:
 おしっこにタンパク質が漏れている(=フィルターの穴が大きい)子は、漏れていない子よりも病気の進行が圧倒的に早いことが分かっています。

上記のサブ判定を踏まえ、診断書には「ステージ2(高血圧なし、タンパク尿あり)」のように書かれ、それによって「降圧剤を使うか」「タンパク漏出を抑える薬を使うか」などの治療が変わってきます。

IRISステージ分類は、単なる数字のラベル貼りではありません。

 「今、どこまで進行していて、次に何が起きる可能性があり、今何をすべきか」を、獣医師と飼い主様が共有するための重要なツールです。

一度機能か失われると再生しない腎臓は、早期ケアが重要です。
愛犬・愛猫を健康診断に連れて行った際に、血液検査もするのであれば、ぜひこのSDMAを検査項目に入れてみてください。

*今回の記事でSDMAの正常値を14μg/dL以下(IDEXX社の検査による)と表示していますが、日本の富士フイルムVETシステムズ(旧モノリス)の検査では正常値が11以下になっていることを申し添えます。
これに関する詳細は、実際の検査結果を見ながら説明した「Gingerの検査結果を読み解いてみた」の記事をご覧ください。


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